日本政策金融公庫による低金利融資制度の利用や、ものづくり補助金の加点対象として重要なポイントとなる経営革新計画。噂には聞いていたものの、「用意する資料が多くてとても代表者自身では対応できない」「とはいえ外部コンサルタントに委託すると数十万円という費用がかかる」といったお話を聞いて、申請することすら考える事はありませんでした。
そんな中、新規事業を考えているうちに「経営革新計画に採択されるくらいの事業計画を書ければ実現性が高いのではないか」という思いに至り、チャレンジ精神で経営革新計画に挑み、採択を頂くことが出来たので、その時に感じたことなどを書いておきます。
同じく経営革新計画に興味はあるが、いま一歩踏み出せない人のご参考になれば幸いです。
【注記】
※本業はPMやディレクターといったIT業界の請負事業で、経営革新計画では自社サービスの提供という内容で申請した例です
※この記事通りに進めれば採択されるといった内容ではありませんので、あくまで一例としてお読み下さい
※記載しているURLは東京都での例ですので、東京都以外の場合は各都道府県のHPをご確認下さい
目次
事前準備
経営革新計画は毎月初旬頃に申請を受け付けていて、同月末日近くに審議会があり、翌月初旬に結果通知が届く、というサイクルになっています。そのため、書類申請できる時期は毎月初旬頃となります。申請するための書類を作成するのに1ヶ月くらいはかかると思いますので、スムーズに進んだ前提でも、採択されたい時期の2ヶ月前くらいから準備が必要になります。
経営革新計画の手順は概ね以下のような流れになります。
- 申請書類を揃える
- 電話予約する
- 申請書類を送付する
- 申請書類を修正する
- 申請する
1.申請書類を揃える
何はともあれ、まずはサイトを確認しましょう。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/kakushin/
しかし、そもそも申請に必要な書類はどのようなものでしょうか。これはサイト内に用意されています。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/sinsei/shoko/kakushin/
決算書や謄本、定款の写しといった定番の書類は良いのですが、大変なのは「承認申請書」というwordのファイルです。雛形をダウンロード出来るようになっているのですが、空っぽの状態で既に15ページもあります。この時点でなかなか大変な印象なのですが、書類を揃えることが申請の前準備という事になるので、しっかり作成しましょう。
この書類を作成するだけで1ヶ月くらいはかかりましたが、作成した書類が窓口で受理され、そのまま申請されることは殆どありません。そのため、自分自身で書類を作成する場合、もちろんしっかり作成する気持ちで挑むのですが、一発勝負までの気持ちでなくても大丈夫です。実際、私は申請窓口の担当者と7往復くらい指摘と修正を繰り返させて頂いて、ブラッシュアップしてから申請に至りました。
ここでは先に「承認申請書」でポイントとなった点や不明に感じた内容を書いておきます。
別表1「事業活動の類型」
私の場合は既存事業が「請負事業」、新規事業が「自社サービス提供」だったので、「2.新役務の開発又は提供」と「4.役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動」に〇を付けました。
経営革新の内容及び既存事業との相違点
最終的に、以下のような見出しと内容で、既存事業と新規事業について簡潔に書きました。
- 既存事業の概要
- 新規事業の概要
- 既存事業と新規事業の相違点、付加価値
付加価値額、経常利益
後半にある「中期経営計画」に計算式がありますので、最後に記入する内容になると思います。
(別表1-2)経営革新計画の具体的内容
ここが「承認申請書」の肝となる部分で、特に以下の項目にはなるべく具体的に内容を記述する必要があります。
- 新事業の内容「自社にとって何が新たな取組みであるのか」
- 計画の実施「新事業をどのように実施するのか」
- 計画を実施した結果はどのようになるのか
具体的な内容は書けませんが、私はざっくり以下のような内容を10数ページ程度でまとめた感じとなりました。
- ビジネスモデルの説明
- 事業のフロー図
- システムの機能一覧
- 外注先候補
- 競合他社との比較
- 必要な資金と調達見込み
- マーケティング手法
- ブランディング手法
- 新規事業を利用する人のメリット
- 新規事業を提供する弊社のメリット
- 将来的なメリット
- 社会貢献性
この中で「必要な資金と調達見込み」と書きましたが、計画の実施が融資前提であるとすると、申請時点で融資の見込みを書く必要があります。ただ、あくまで「見込み」なので、例えば実際に公庫などに相談に行き、検討中、といった内容で問題ないようです。
(別表2)実施計画と実績
「中期経営計画」を進める中で具体的になっている実施項目を記入します。私の例だと以下のような内容となりました。
- システム構築
- 販売促進
- ブランディング
- 弁護士、税理士との契約内容見直し
(別表3-2)中期経営計画
ここもとても重要なポイントです。計算式が入ったエクセルファイルがあるので、エクセルファイルで内容をまとめてからwordにコピペするようにしましょう。
直近~2年前あたりで赤字決算となっている場合は、その理由と今後の対策を枠外あたりに書いておくと良いようです。
「直近期末」は時期に関わらず「最新の実績」ですので、期末間近だとしてもあくまで「最新の実績」を「直近期末」として計画を策定しましょう。
2 新規事業 売上高計画の内訳
単価や販売量の根拠としては、市場規模の調査と併せて競合他社の実績を調べて例とするのが伝わりやすいかと思います。
一通り書類が用意できたところで、電話予約へと進みます。
2.電話予約する
出来る限り内容を盛り込んで申請書類が揃ったら、電話予約しましょう。
書類を準備したこと等を伝えると、担当者のお名前とメールアドレスを頂き、メールで連絡するように言われました。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/kakushin/tetsuduki/soudan/
3.申請書類を送付する
ご紹介頂いた担当者へ、まずメールで申請書類のwordファイルのみを提出、その後、郵送で書類を送付する流れとなりました。コロナ時期だったこともあり直接の面談は無く、やり取りは基本的にメールのみでした。
4.申請書類を修正する
ここからが、個人的には「自分で申請して良かった」と感じたところ。担当者によるのかもしれませんが、送った申請書類を右から左で申請に繋げるわけではなく、「ここの根拠を教えて下さい」や「事業の流れを簡単に理解できる説明を加えて下さい」、はたまた「計算式間違えてますよ」といった恥ずかしい内容まで色々とご指摘頂くこと約7往復、申請書類の精度をしっかり高めて頂けました。
事業計画書をここまでの精度で作ったことが無かった私としては、事業計画書のポイントも知ることが出来て、何より「初見の事業にここまで的確な指摘を出来るってすごい」と感動を覚えました。
5.申請する
最終的には完成したwordファイルで申請して頂き、あとは待つのみ、という事になります。結果は郵送でも届きますが、申請書類内の「企業名等の公表」に丸を付けた項目については東京都のサイト上に掲載されるので、第三者に対しても採択されたことが明示されます。
ちなみに私の採択結果は令和2年度9月に掲載して頂けました。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/kakushin/jisseki/kensuu/
新規事業の実現性を試したい経営者に是非おすすめの経営革新計画
今回、経営革新計画に一人で挑んで一番感じたことは、事業計画の重要性。採択率が10%に満たないと言われている中で採択されたということ自体が自信にも繋がりますし、経営者として事業に対する思考が養われた気がしました。
以上、経営革新計画に一人で挑んで採択された書類作成や申請のポイントについてでした。